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『利用者をよくする』老健は 働きがいのある職場

『利用者をよくする』老健は 働きがいのある職場
撮影◎池田昌康 (2007年8月31日公開)


老健は、自宅から直接利用を開始する人だけでなく、回復期リハビリテーション病棟や療養病床からの退院患者や、ときに急性期病院からの退院患者など、多様な状態像の利用者を受け入れます。

障害をもった高齢者は同時に病気をもつことがほとんどですから、老健のリハは、その人の生活をみるリハであることをベースにしつつ、多様な状態像に的確に対応するリハが求められます。そこには、高齢者リハのイメージありがちな「漫然とした、変化のない」リハはありません。

──その人の生活をみて、状況に応じて、「よくする」ことを実現する老健リハの魅力は何か。座談会では、さまざまな立場の方に集まっていただき、話をしてもらいました。


急性期志望から地域リハの実践者に(山田さん)

高椋 今日は、老健のリハビリテーションのやりがいについて皆さんと話したいと思います。僕は医師で、老健の施設長です。また、全老健の副会長でもあり、大学で学生を教えたりもしています。若い人に老健のリハビリテーションの面白みをもっとわかってほしいと思っています。

橋元先生は九州リハビリテーション大学校の教授で、私も長くお付き合いさせていただいていますが、山田さん、学生お二人は初対面になりますね。橋元先生、ちょっとご紹介いただけますか。

橋元 山田さんは理学療法士で、もう20年以上のキャリアがあります。彼は九州リハビリテーション大学校を卒業して、まさに治療的活動、それもどちらかといえば急性期の理学療法士を目指していましたが、その後、地域活動などの実践を重ね、昨年から老健施設の理学療法士プラス管理者として仕事をしています。

学生の2人はともに本校の二期生です。伊藤君は理学療法学科。一期では総合病院、急性期から回復期のある総合病院で実習をし、今、老健で実習をさせていただいています。本人は正直、これからどういう方向へ行ったらいいか迷っている状態です。急性期にも魅力を感じていますが、老健で高齢者に携わった時、こういう世界もあるなという感じを持っているようです。  

石渡君は作業療法学科。長期実習の一期で老健の作業療法を経験しました。二期の今はどちらかというと急性期の病院で実習をしています。非常にスポーツ好きで、将来はその方向の進路も視野に入れているようです。

高椋 山田さんは急性期志望だったのですね。

山田 そうです。それが地域リハビリテーションにどっぷりはまるようになりました。
最初の就職先が熊本県の病院でした。今思うと、そこはリハビリテーションについて先駆的な活動を行っており、現在のリハビリテーションの流れの先駆けでしたね。その後、家庭の都合で、重症心身障害児施設に2年間勤務し、まさにガラッと方向が変わった。もちろん、そこでの仕事は大きな財産になっています。  

その後、別の病院に就職しました。そこでは、リハビリテーションという概念を病院の中に植えつけていくことから始まりました。リハビリテーションの施設認可をとるところから始め、回復期リハビリテーション、在宅リハビリテーションなど、地域リハビリテーションの実践を行ってきました。専門学校では、非常勤講師として地域理学療法学を担当させていただいています。  

私の転換点はまさにこの病院への就職で、地域のリハビリテーションに携わり、徐々に地域への関心が高まってきたのです。そして昨年から、老健にもかかわるようになりました。

入所―通所―訪問 老健は地域リハの中核施設

高椋 山田さんからみた老健のリハビリテーションとはどういうものですか。

山田 地域リハビリテーションの中核施設ということを強く感じています。老健には入所サービス以外にも、通所サービスや訪問サービスがあり、それぞれでリハビリテーションが実践されています。入所リハ、通所リハ、訪問リハといった、広い分野に渡ってリハビリテーションサービスを提供できる機関であるということは、地域に根ざしたリハビリテーションができるということですからね。
そういう意味では、学生さんにリハビリテーションについて幅広い見識をもっていただける施設として、教育ができる場という感じももっています。

高椋 学生の2人はどういうきっかけでリハビリテー ション専門職になろうと思ったの?

伊藤 高校3年の夏くらいに手を骨折し、自分がリハビリを受けたのが一つのきっかけですね。その前には新聞で橋元先生の記事など読んだりしてリハビリテーションには関心がありました。高校の時、4年制大学へ進学しようとも考えていましたが、なりたい職業が決まっていなくて、それなら理学療法士の学校に行き、しっかりと目的を持って頑張ろうという、そういう気持ちで入学しました。

石渡 自分はずっとスポーツをやっていて、野球部でしたが、けがをした時に作業療法士の方に診てもらったこともあり、それが一つのきっかけでした。あと、中学生ぐらいの時、曽祖父が老健に入所していたので、そこでリハビリをしているのを何度か見たことがあって、それで目指そうと思いました。

理学療法にしようか作業療法にしようかについては、資料を見ていくうちに、日常生活に復帰していく時に、作業療法士がとても大切になっていくことを知ったので、作業療法士になろうと思いました。

「老健って意外とリハビリしてる」 実習でそう感じた(学生)

高椋 実習で老健と病院のイメージは変わった?

伊藤 最初は、病院は医療が中心で、老健は介護が中心というような考えを持っており、実習に行く前は老健に対してリハビリテーションをあまり積極的に行っていないイメージがありました。でも実際に実習に行くと、老健は利用者の生活に直結したリハビリテーションを展開していることに気づき、改めて老健における理学療法士の重要性を知りました。

石渡 僕も、老健はあまりリハビリテーションを積極的には行っていないのかなと思っていましたが、そうではありませんでした。作業療法をして、自宅復帰した際に困難なことが生じないように、自宅の訪問に行ったり、施設でも日常生活へ向けてのリハビリテーションをされていたので、とても勉強になりました。

橋元 病院というのは治療の場。しかし老健は生活の場とも言えるわけですから24時間365日の対応が必要となります。それを実際にケアしようと考えた時、夜7時だから、8時だからという概念はなくなってきます。特に老健は生活をどう構築するかがポイントで、今後リハビリテーションの提供方法がよりシステマティックになってくれば、夜勤もしなければならない時 代となってくるでしょう。

老健の最高の魅力は、山田さんも指摘したように、通所や訪問もあって、複合的なサービスをしているということ。また、そういうサービスの展開が必要な時代を迎えていますので、今後、さらなる展開が期待されると思います。そしてまさしく、そういうところを実習で学べるかが、学生にとって老健を理解する重要なポイントになってくるでしょう。

山田 私が学生の時は、老健はまだなかったので、全部医療機関での実習でした。振り返ってみれば、実習先で学んだものは、専門的な知識や技術はもちろん、患者さんとの接し方です。病院というと、どうしても患者さんの治療という、その視点が大事になります。リハビリテーションの本質は、トータルにかかわっていくべきものですが、病院だとどうしても“治療” に目がいきがちになります。 

一方、老健では、生活基盤というものをいかに構築していくか、それらを社会の中に、あるいはご自宅の中にどのようにつなげていくかという実践が行われますから、多くの職種、あるいは地域の住民の方とのかかわりを持つ場が多くなります。ですから、その中で動いていくことそのものが、コミュニケーションであったり、自らの振る舞いでありということが、老健は非常に学びやすい。
もちろん、それをわからせる指導者がきちっといないといけないのですが。

橋元 老健で大切なことは、白衣を着てする仕事ではないということ。居宅に訪問するのにはトレーナーやジャージのような服装で行くかもしれません。これは、施設という限られた空間で完結する仕事ではなく、生活の中でどう行動するかを考えなければならないからです。だから普段着で訪問するのです。

だからこそ資質や技術がないと何もできないという怖さもあります。そのとき重要なのは、上司たる人がどのような人か。その人とうまく人間関係をつくり勉強できるか、アドバイスがもらえるかということです。学生にとって、実習している施設のスーパーバイザーがとても重要な意味をもつことになります。たとえば、あそこには山田先生といういい指導者がいるよと。その彼のもとで働いてみないか、技術を盗んでみないかという指導につながりますよね。

高椋 なるほどそうですね。学生の2人は就職先として考えるとき、どういうところが気になる?

石渡 スタッフの方と患者様がよくコミュニケーションがとれていたりというのは惹かれます。そういう関係性をすごく大事にしたいなと思いますから。その意味では、雰囲気は重要ですね。

伊藤 人間関係や職場の環境が充実していることが重要だと思います。患者様や医師、スタッフなどがうまくコミュニケーションがとれているかということが気になりますね。また、尊敬できる先生がいて、その先生方の技術を学ぶ中で自分が理学療法士として成長していけるような職場に就職したいと思います。

いい先輩、いいボスを 老健で探してみよう

高椋 就職先を決めるというのは、たとえば大学生でも難しいでしょう。たとえば、有名大卒で、結構名の通ったいい会社に入ったとする。でも、今は昔のようにそれで将来安泰っていうことにはならない。もはや名前だけで勝負できる時代は終わったんだと思います。つまり、これからは自分が何をしたいかを決めていけるような舞台にまず立って、そこで勉強して進歩して、方向性を決めていくという方法が必要なのだと思います。

専門職も同じようなことがいえるのではないでしょうか。理学療法士や作業療法士はひと昔前までは非常に数が少なかった。けれど、今はもう違います。今の学生さんを考えると、上にもある程度の人数のリハビリテーション専門職がいて、後に続く後輩たちも、今よりもっと数が多くなる状況でしょう。

そう考えると、老健は皆さんが活躍の場を広げる一つの舞台になりうると思います。ただ、そうすると、その老健にしっかりしたチューター、あるいは技術者、さらにはボスにしっかりしたのがいないとだめですね。僕の立場から言うと、やはり医師がしっかりしてほしいなと思うのです。

山田 そうですね。老健は病院と同じく、ボスは医師であることが多いので、そこから考えると、ボスである医師が本当に老健としての役割と機能を十分理解しているか、それを果たすことを目的に老健を作られる医師の老健と、あくまで経営的に、何とか生き残っていくためにやるという姿勢の老健では違うでしょう。 そういう違いがあると、この2つの老健の雰囲気や状況は非常に大きく違うと思います。  

これはリハビリテーション専門職にも当てはまる部分があります。老健ができ始めたころは、老健のイメージはあまりよろしくなかった。だから、なかなか専門職が来てくれない。そういうなかで、給与面を高く設定し、何とか確保しようとした歴史もあります。しかし、本当に地域の中で果たす役割が大きくなるにつれ、 やはりこれは必要な施設だという環境になりつつある。  

これは、いいボスたる医師と、いい先輩たるリハビリテーション専門職など、老健で働くスタッフが築き上げてきた歴史です。そして、そういう歴史は個々の施設で今も引き継がれているわけですから、学生さんからすれば、そのあたりも実習で見てほしい。学生さんもいろいろな老健に実習に行かれると思いますが、行った学生同士の情報交換というのも意味があるのではないでしょうか。

老健からも情報を もっと発信してほしい



橋元 山田さんが非常にいいことを言ってくれました。今まで老健で働いてきた人たちが、老健のリハビリテーションというのを正しく伝えてきた。本当にそういう人たちが全国にたくさんいます。だからこそ期待をしたいのですが、その人たちがもっと、老健のリハのあり方というのをPRしてほしい。それは、実習という場面でもそうだし、理学療法士や作業療法士の学術大会など、学術面でもPRするのを忘れてはいけないと思います。

山田 老健にはまだ1年間しか在籍していませんが、今まで老健には、漫然としたリハビリテーションというイメージがありましたが、実は、維持期でできるサービス、すべきサービスの役割は非常にたくさんあるのです。これは地域リハ活動を通し、非常に強く感じていました。  

理学療法士の場合でいうと、身体機能に視点がいきがちになりますが、生活をする場合には、生活環境、環境整備がいかに大事か。それもただ整備をするということでなく、うまく使えるようにする、あるいはそれを使い続けるというようなことを踏まえ、患者さんとご家族とかかわっていく面白みはすごく大きい。地域であるとか、在宅であるとか、維持期であるとか、こういう部分はやればやるほど面白みが出てくるというのを我々が伝えていく役目もあるのではないかと思いますね。

次の人生を考え、よくする施設 老健でこれからの日本を支えよう

高椋 僕が老健にかかわるようになって17年ぐらいになります。実を言うと、僕は元々救命救急の外科医で、年間300の手術をこなしていたんです。
その僕が、老健って面白いって思うんです。制度の話は難しくなるので省きますが、今の老健は極端にいうと、急性期病院もとってくれないくらいの人も対象にしているんです。病院に、もう医学的にたいした手はありません、もう80いくつですからねえと断られちゃうからです。だから老健は、高度な技術や専門的な知識が学べる場所でもあるのです。  

じゃあ、老健はどんなところか。ひと言でいうと、常に良くすることを目指す施設なんです。
どんなに高齢であろうが、全介助であろうと寝たきりであろうと必ず、「その人の人生をよくするために」必ずすることがあるんです。だから、老健は、常に利用者の次の人生を考える場所です。だからリハビリテーションが重要なのです。次の人生を考えて、そうやっていくことを1人やって、10人やって、100人やって、1,000人やって、10,000人やったら、間違いなく地域ケアの中核施設になるんです。だから、プロフェッショナル集団になる必要があるのです。

これからの日本は高齢化率そのものはある時期から下がります。下がりますが、75歳以上の後期高齢者の数はこれからずっと増え続ける。そこを誰が支えるか。この人たちの人生を支える仕事を若い人とともに老健でやっていきたいと僕は考えているんです。
この記事を読んで「あれ、興味あるかも」と思った人は、近くの老健や、老健で働いている先輩に声をかけて、老健についてもっと知ってくれたらうれしいです。

(役職等は2007年8月31日公開時点のものです)