地域こそ、これからのリハの拠点
時代のニーズに応えるリハサービスの提供を
(2006年8月31日公開)
瞬く間に「高齢化社会」から「高齢社会」へと突入した日本。今後、さらに「超高齢社会」へ移行することが予測されています。このような人口構造の変化は、高度経済成長時代からゼロ成長時代へと変化した経済情勢とあいまって、わが国にさまざまな問題を提起しています。
医療や介護の世界でもさまざまな課題が浮かび上がってきました。もっとも大きな課題は増え続ける高齢者への対応です。そこで現在、医療保険や介護保険に代表される医療や介護の提供システムの構造改革が進められています。リハサービスの内容や提供体制も大きく変化していますし、国民のリハニーズも大きくなっています。かつて医療に“病気の治療”に期待を寄せたように、いま国民はリハに大きな期待をしています。
ここでは、リハ専門職養成学校の代表である土肥信之さんと、介護老人保健施設の代表の漆原彰さんを迎え、リハの期待にどう応えるか、メッセージをいただきました。
土肥信之さん(以下、土肥) 今年、平成18年のリハ専門職の国家試験合格者はPTが約6,000人、OTが約4,200人でした(表も参照)。なかでもPTについては昨年(平成17年)の合格者数が約4,800人でしたから、5,000を通り越して一気に6,000の大台に達したことになります。来年の合格者数は7,000人台になると思われます。このペースでいくと、そう遅くない時期にPTが1年に1万人増える時代になるでしょう。すでに養成校の入学者ベースはこの程度の規模になっています。
しかし、リハ専門職の数は、時代のニーズや活動の場の広がりを考えると、増え続けているとはいっても、まだまだ足りないというのが私の考えです。
土肥 おっしゃるとおりですね。ただ、この変化はリハ本来のあり方を考えたとき、当然の成り行きと考えることもできるでしょう。病気や障害を持った方々の地域での生活を支えていくことこそ、 リハ本来の使命の一つですから。
このことは、リハ専門職の職域の拡大ということにもつながります。養成校の卒業生も、時代のニーズの変化を考えると、対象としては高齢者、場所としては地域に、それぞれもっともっと活動の場を広げていってほしいと考えています。
そのために老健は、入所、通所、短期入所のほか、訪問リハも提供できるサービス体制を整えています。つまり、老健は「入る」「通う」「預かる」「訪れる」という要素をすべてもっているわけで、多面的なのです。介護保険施設で唯一、リハ専門職の配置を義務づけられた施設であり、「リハビリテーション施設」であることは自他共に認めるところです。
サービスは、高齢者を中心に、すでに障害を持っている方だけでなく、虚弱で介護の必要な状態になる可能性の高い方へも「介護予防サービス」を提供しています。老健はまさしく地域の維持期・ 慢性期リハの「ワンストップ・サービス ステーション」なのです。
土肥 老健には、施設入所というイメージがまだ根強く残っていますが、いまおっしゃったような地域活動の展開は、時代が必要としているものであり、その部分をもっと拡大・充実するとともに、 その活動内容や成果を、われわれ養成校側にも伝えていただきたいと思います。
漆原 その意味では、リハの地域資源として、老健とリハ専門職養成校はもっと密接な関係を持っていいのかもしれませんね。現在でも、実習受け入れや新卒者の就職先としての付き合いはありますが、施設や学校によって、非常にいい関係を築けているところもあれば、そうでないところもまだまだあります。
土肥 実習についていえば、優れたリハの実践を行っている老健なら、養成校側としては、ぜひ実習をお願いしたいと思うはずです。先ほどから「時代の変化」について触れていますが、特に高齢者を取り巻く制度やサービス提供体制の変化はここ数年で大きく変革しています。現場からでしか発信できない情報もあるはずですから、地域にある養成校に伝えていただきたいですね。
漆原 老健はかつて「リハ専門職の一人職場」といわれた時代がありましたが、今はほとんどの老健で2名以上のリハ専門職をかかえています。10名近くのスタッフをそろえているところもあります。以前は、たしかに実習や就職後の指導体制に難があった部分もありましたが、現在は刷新しているところがほとんどです。
にもかかわらず、地域での両者の関係はまだ十分ではありません。これからはお互いの質を高めあうためにも、また時代のニーズにあった、地域活動を実践しようとするリハ専門職のためにも、顔の見える付き合いが必要です。
漆原 同感です。われわれ老健は、地域で高齢者の維持期・慢性期リハを実践する施設として、養成校の教員の方や学生さんたちにも、自らの情報をもっと発信していきたいと思います。これを読んでくれている皆さんも、そばにある老健に「どんなリハをしているか聞かせてほしい」など、積極的に問いかけをしていただけるとありがたいですね。そして、リハ専門職のみなさんに、もっと老健に関心をもってもらえるようにがんばりますので、これからもよろしくお願いします。
(役職等は2006年8月31日公開時点のものです)
医療や介護の世界でもさまざまな課題が浮かび上がってきました。もっとも大きな課題は増え続ける高齢者への対応です。そこで現在、医療保険や介護保険に代表される医療や介護の提供システムの構造改革が進められています。リハサービスの内容や提供体制も大きく変化していますし、国民のリハニーズも大きくなっています。かつて医療に“病気の治療”に期待を寄せたように、いま国民はリハに大きな期待をしています。
ここでは、リハ専門職養成学校の代表である土肥信之さんと、介護老人保健施設の代表の漆原彰さんを迎え、リハの期待にどう応えるか、メッセージをいただきました。
増え続けるリハ専門職
漆原 彰さん(以下、漆原) 近年、わが国ではリハへの期待が高まっています。私たち老健は高齢者の維持期・慢性期リハを担っていますが、高齢社会を迎え、このステージのニーズも拡大する一方です。私たちはそれに応えていくために、さまざまな取り組みを行っていますが、医療や介護サービスの根幹はなんといっても“人”です。そして現在は、その質と量の両方が求められています。そういう意味で、土肥先生を代表とするリハ専門職の養成校の役割も非常に重要だと思います。土肥信之さん(以下、土肥) 今年、平成18年のリハ専門職の国家試験合格者はPTが約6,000人、OTが約4,200人でした(表も参照)。なかでもPTについては昨年(平成17年)の合格者数が約4,800人でしたから、5,000を通り越して一気に6,000の大台に達したことになります。来年の合格者数は7,000人台になると思われます。このペースでいくと、そう遅くない時期にPTが1年に1万人増える時代になるでしょう。すでに養成校の入学者ベースはこの程度の規模になっています。
しかし、リハ専門職の数は、時代のニーズや活動の場の広がりを考えると、増え続けているとはいっても、まだまだ足りないというのが私の考えです。
理学療法士 | 作業療法士 | 言語聴覚士 | |
---|---|---|---|
平成18年(第41回) | 6,002 | 4,185 | (第8回)1,389 |
平成17年(第40回) | 4,843 | 3,442 | (第7回)1,012 |
平成16年(第39回) | 4,199 | 3,313 | (第6回)1,130 |
平成15年(第38回) | 3,629 | 2,937 | (第5回)1,027 |
変化した国民のリハニーズ
漆原 高齢社会になって、国民のリハニーズも変化しました。これまでリハといえば病院に代表される急性期リハが中心でしたが、今ではその後の、回復期・維持期・慢性期のリハに注目が集まり、その提供場所も病院だけではなく、老健などの施設を含む“地域”へと大きな広がりをみせています。土肥 おっしゃるとおりですね。ただ、この変化はリハ本来のあり方を考えたとき、当然の成り行きと考えることもできるでしょう。病気や障害を持った方々の地域での生活を支えていくことこそ、 リハ本来の使命の一つですから。
このことは、リハ専門職の職域の拡大ということにもつながります。養成校の卒業生も、時代のニーズの変化を考えると、対象としては高齢者、場所としては地域に、それぞれもっともっと活動の場を広げていってほしいと考えています。
老健の活動は多面的
漆原 老健はその役割として「地域に根ざした施設」であることをうたっています。地域のなかで、地域に暮らす高齢者の方、またその高齢者と暮らす家族の方を、まるごと支援していく活動を展開しています。そのために老健は、入所、通所、短期入所のほか、訪問リハも提供できるサービス体制を整えています。つまり、老健は「入る」「通う」「預かる」「訪れる」という要素をすべてもっているわけで、多面的なのです。介護保険施設で唯一、リハ専門職の配置を義務づけられた施設であり、「リハビリテーション施設」であることは自他共に認めるところです。
サービスは、高齢者を中心に、すでに障害を持っている方だけでなく、虚弱で介護の必要な状態になる可能性の高い方へも「介護予防サービス」を提供しています。老健はまさしく地域の維持期・ 慢性期リハの「ワンストップ・サービス ステーション」なのです。
土肥 老健には、施設入所というイメージがまだ根強く残っていますが、いまおっしゃったような地域活動の展開は、時代が必要としているものであり、その部分をもっと拡大・充実するとともに、 その活動内容や成果を、われわれ養成校側にも伝えていただきたいと思います。
老健はもう「一人職場」ではない
土肥 これからの時代のキーワードは“地域”です。医療や介護の世界も例外ではありません。もちろんリハサービスも同様です。そしてその“地域”には、人が住み、病院があり、老健のような施設があり、そしてわれわれ養成校があるわけです。漆原 その意味では、リハの地域資源として、老健とリハ専門職養成校はもっと密接な関係を持っていいのかもしれませんね。現在でも、実習受け入れや新卒者の就職先としての付き合いはありますが、施設や学校によって、非常にいい関係を築けているところもあれば、そうでないところもまだまだあります。
土肥 実習についていえば、優れたリハの実践を行っている老健なら、養成校側としては、ぜひ実習をお願いしたいと思うはずです。先ほどから「時代の変化」について触れていますが、特に高齢者を取り巻く制度やサービス提供体制の変化はここ数年で大きく変革しています。現場からでしか発信できない情報もあるはずですから、地域にある養成校に伝えていただきたいですね。
漆原 老健はかつて「リハ専門職の一人職場」といわれた時代がありましたが、今はほとんどの老健で2名以上のリハ専門職をかかえています。10名近くのスタッフをそろえているところもあります。以前は、たしかに実習や就職後の指導体制に難があった部分もありましたが、現在は刷新しているところがほとんどです。
養成校と老健の積極的な交流を
土肥 養成校の教員も、かつては「新卒者の就職先は医療機関」という固定観念がなかったとはいえませんが、そのような教員は今や少数派と言っていいでしょう。養成校側も時代のニーズに敏感に対応しようと努力しています。にもかかわらず、地域での両者の関係はまだ十分ではありません。これからはお互いの質を高めあうためにも、また時代のニーズにあった、地域活動を実践しようとするリハ専門職のためにも、顔の見える付き合いが必要です。
漆原 同感です。われわれ老健は、地域で高齢者の維持期・慢性期リハを実践する施設として、養成校の教員の方や学生さんたちにも、自らの情報をもっと発信していきたいと思います。これを読んでくれている皆さんも、そばにある老健に「どんなリハをしているか聞かせてほしい」など、積極的に問いかけをしていただけるとありがたいですね。そして、リハ専門職のみなさんに、もっと老健に関心をもってもらえるようにがんばりますので、これからもよろしくお願いします。
(役職等は2006年8月31日公開時点のものです)