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高齢者を『大事にして』『元気にする』

高齢者を『大事にして』『元気にする』
(2006年8月31日公開)


老健は、3つある介護保険施設のなかで唯一、リハの提供を中心機能の一つに位置づけられた施設です。ですから、「病気の診断・治療」を行う病院に必ず医師がいるように、「リハ」を行う老健には必ずリハ専門職がいます。老健ではリハ専門職の人たちを中心に、障害を持った高齢者の方々に維持期のリハサービスをさまざまなかたちで提供しています。  

このような老健ですが、PT・OT・STの資格取得をめざして勉強している大学生や専門学校生にとっては、必ずしも「魅力ある職場」とは映っていないようです。老健のなかには、フレッシュな戦力として新卒者の就職に力を注いでいるところも多くありますが、人材難を嘆く老健がたくさんあるのも事実です。  

一方で、学生さんのなかには「地域リハ」に関心の高い方が多いようです。老健は地域リハの一部を担う、地域におけるリハサービスの提供拠点ですから、現在のような状況は両者のミスマッチをうかがわせることでもあります。そこでここでは、現場で質の高いリハサービスの実現に努力している老健関係者と教育の現場で指導する教授に集まっていただき、老健のリハについて話してもらうことにしました。


変化するリハ専門職のニーズ

浜村明徳さん(司会。以下、浜村) 老健では障害をもった高齢の方々へ、リハサービスやケアサービスを提供しています。老健が提供するリハは、ステージでいえば高齢者の維持期・慢性期のリハで、地域リハの一翼を担うものです。また、老健は介護保険制度に位置づけられた施設で唯一、PTやOTなどのリハ専門職を「必ず配置すること」が義務づ けられた施設(*1)です。  

僕は医師として長く地域リハにかかわってきました。病院と老健、両方の現場を経験して感じるのは、老健のリハは、急性期のリハと同様、とても魅力とやりがいがあるものだということです。このことをリハ専門職養成校の学生さんにも理解してほしいと思います。座談会ではさまざまな切り口で、老健リハの魅力ややりがいについて話をしたいと思います。まず、橋元さん。橋元さんはリハ専門職養成校の先生ですが、教員の方々は老健をどのようにみておられるのでしょう。

橋元隆さん(以下、橋元) それは教員によってさまざまでしょうね。ただ、一般論としていえば、従来は養成校の教員側に、老健など維持期リハは、病院リハ、つまり治療的な、特に急性期リハを経験した上でアプローチするほうがよいという考えが根強くありました。ですから以前は、老健はリハ専門職の勤務先の一つではあるけれど、卒後、最初の就職先として積極的に選択できると考える教員はそう多くはありませんでした。しかし、時代は大きく変化しています。日本理学療法士会の平成18年の調査によると、PTの4万人弱の会員のうち2,571人が1,700の老健に勤務しています。これは会員の6.6%に相当する数で、対前年比で0.2ポイント増となっています。つまり、総数としては少ないものの、老健で働くPTは、ここ数年着実に増えてきています。  

また、リハの専門職養成校の団体である、全国理学療法士・作業療法士学校連絡協議会では、今年「老年期PT・OT教育を考える」と題した研修会を実施しました。さらに、平成18年度の重点事業として、維持期、特に地域リハをふくめて、老健施設への就職などに取り組む事業をあげました。このように、養成校側としても時代の変化にあわせて取り組みを進めているところです。ただ、このようなリハニーズの変化を、現在の教育カリキュラムが十分反映できるものとなっているか、あるいは変化している老健リハの現状を、われわれ教員が十分把握して学生を教育しているか。これらについては検討課題といえますね。

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*1:介護保険制度では施設として、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設、介護老人福祉施設の3つが規定されています。このうち、療養型は6年後に廃止になることが決まりました。それぞれの施設には、どのような職種がどれぐらい必要かということが定められています。これを「人員基準」といいます。そして、老健だけがリハ専門職がいないと運営できないという規定が設けられているのです。

老健はなぜ不安に思われた?

浜村 これまで教員の方に卒業生を老健に就職させることに若干のとまどいがあったという話も聞きます。その理由はどんなことにあるのでしょう。

橋元 PTにしろ、OTにしろ、根本に“医療職”という専門性があります。その点から考えると、老健は医師や看護師、リハ専門職のいる医療施設ではあるけれど、治療的要素を十分発揮する場所かというとそうではない。つまり専門性が発揮しにくいのではないかということが問題とされます。老健の人員配置が「理学療法士または作業療法士」となっているところもネックになっています。この「PTまたはOT」、すなわち「どちらでもいい」という基準のあり方は、PTはPTの専門性を、OTはOTの専門性をと考える立場からするとすんなりとはなじめない。  

また、それぞれの老健のもつ問題もあったと思います。たとえば、病院併設型の老健(*2)で非常に優秀なPTがいる。そこで理学療法の教員が実習をお願いしたが、いざ実習のときはそのPTがローテーションで病院に戻ってしまい、老健には代わりにOTが着任していたという現実がある。これでは指導体制に疑問をもってしまうわけです。看護職、介護職とリハ専門職との連携が十分見えなかったという問題もあります。施設によっては看護職がリーダーであり、施設によっては介護職がリーダー、施設によってはリハ専門職がリーダー……。そんななかで学び就職していくのは勇気がいる。 これらのことが関連しあって「学べない」というイメージが強くなっていたことが理由と言えるでしょう。

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2:老健にはさまざまな設置形態があります。母体となる機関が病院の場合を「病院併設型」、診療所(クリニック)の場合を「診療所併設型」、特養の場合を「特養併設型」と呼びます。また、母体施設のない「単独型」の老健もあります。ただし、単独型の場合も、病院等の医療機関との密接な連携がとられています。

老健で働いて実感したこと

浜村 実際に老健で働くリハ専門職としてはどのようなことを感じてきましたか。

金野千津さん(以下、金野) 私が老健に勤務して10年以上が経ちました。入ったばかりのころは、まだ老健が十分に認知されていないときでもあり、私自身、老健がどんなところか正直知りませんでした。施設は岩手県の田舎にあり、クリニック併設です。今でこそPT3名、OT5名、STが1名働いていますが、私が就職した当時は、リハ専門職の常勤は私一人。いわゆる「一人職場」です。併設に大きい病院があるわけではないので、自分が何をしたらいいのか、同じ職種に相談することもできない状況でした。結局、そこから私がしたのは「自分で自分の仕事を開拓する」ことです。わからないながらもさまざまなことを考え、看護・介護職とのかかわりのなかで試行錯誤を重ね、老健のリハを実践してきました。正直、たいへんでしたが、今振り返って考えると、このことが私にとってリハというものの本質を理解する上でものすごく重要で、価値のある経験となりました。

浜村 教えてもらったり仕事を与えられるのではなく、自分でクリエイティブに仕事を作り上げていったということですね。通り一遍の仕事ではなく、自らが分野を切り拓いていくような仕事がしたい、そういう思いをもった人にとっては、老健は可能性のあるやりがいのある職場といえますね。

金野 そう思います。そして、そのような先輩たちの老健での取り組みによって、リハ専門職の職域そのものを広げることに貢献したのではないかとさえ感じます。

浜村 なるほど、老健という職場がリハ専門職の活動により広がりを与えたということですね。ただ、それは過去形の話ですか。今からでも同じようなことが可能でしょうか。

金野 できると思います。
私は老健で働いて、本当の意味での知識の必要性を強く感じるようになりました。私が最初に働いたのは整形外科がメインの病院でした。たしかに新しい知識は入ってきて専門分野の知識を深めていくことはできましたが、反面、それを受け止めるだけでやっていけたのです。この点、老健はちがいます。まず、かかわる相手の状態像の幅が病院とは比較にならないほど広い。たとえば、PTとして病院にいたときには認知症の人にかかわるとは思いませんでしたが、老健では当然のようにかかわるわけです。

このような状況でリハを実践していくためには知識が必要になります。それも表面的なものではなく、いろいろな場面で応用できる深く、幅広い知識が求められます。つまり、病院は疾患やそこに起因した障害をみますが、老健は障害そのものはもちろん、その人の生活をみなければなりません。だからこそ、リハの実践はクリエイティブなものになります。その点、とてもやりがいがあります。もちろん、プレッシャーも相当ですが(笑)。これは私自身の反省でもありますが、老健でリハをして、病院時代は疾患ばかり見て患者さんのもっている背景、生活にほとんどふれていなかったことに気づいて唖然としたほどです。

認知症リハが老健だけに位置づけられた

浜村 金野さんから認知症の利用者の話が出ましたので、老健リハと認知症について考えてみましょう。平井さん、いかがですか。

平井基陽さん(以下、平井) 私は医師で、専門は精神科です。これまで高齢者医療などに関心をもって取り組んできて、老健は制度ができてすぐのころからかかわってきました。リハは専門外で最初はよくわからなかったのですが、勉強させてもらって今は認知症のリハなどにかかわっています。老健リハと認知症については、今回の介護報酬改定(*3)で、「認知症短期集中リハビリテーション実施加算」という新しい評価ができました。この加算は、(1)対象となるのは老健の入所サービスだけ、(2)リハ専門職が1対1でかかわること―などを要件とした加算です。医療保険では精神科領域で認知療法などについて加算が評価されていましたが、今回わが国で初めて「認知症リハ」を直接評価する加算ができたということで、高齢者医療・介護 の関係者の注目を集めています。  

精神科のリハというと、OTが主に活躍していますが、今回の加算は「リハ専門職のかかわり」が必須条件で、PT・OT・STという職種のしばりはありません。そしてさらに、この加算は同時に新設された身体の障害を対象にした「短期集中リハビリテーション実施加算」と同じフレームで構築していることも画期的です。従来、精神科のリハと身体障害のリハとは次元の異なるものとして整理されてきたきらいがありますが、そこに問題提起をするものにもなっています。私はこのことから、ひょっとしたら認知症のリハというのは、医療の世界で専門分化されてきたリハのあり方を、もう一度、根本的に問い直す機会になるかもしれないと感じています。老健でしか認められない、この「認知症短期集中リハビリテーション実施加算」の実践は、これからの高齢者リハのあり方に問題提起をする、大きなプロジェクトということもできると思います。

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*3:わが国の医療や介護のサービスのほとんどは、保険によって提供されます。医療は医療保険、介護は介護保険がそれぞれ担っています。保険で提供されるサービスは、公的に価格が設定されることになっており、その価格のリストというべきものが、医療保険では診療報酬、介護保険では介護報酬と呼ばれます。そして、これは一定期間でその内容や価格を見直すことになっています。これを改定といい、介護報酬改定とは、介護保険に定められたサービスの内容と値段を決定するものです。

老健でのリハ専門職の可能性は大きい

浜村 老健の現場で新たなチャレンジが行われるということですね。これは先ほどの金野さんの話にもつながりますね。

金野 地域に出て行くというチャレンジも、これからの可能性の一つだと思います。介護保険にはリハビリテーション・マネジメントという考え方が新たに導入されましたので(*4)、老健のリハ専門職は地域とのかかわりを今まで以上に深めていくことになります。私も実際に、ケアマネジャー(*5)など地域のさまざまな関係職種と情報交換をするなかでそれを実感します。

平井 私は現在、医療法人の理事長として、老健などの経営のマネジメントを行う立場にありますが、リハ専門職は将来的には、施設を経営・運営するという意味でのマネジメントを担う存在として活躍する可能性もあると思います。現場のリハ実践の経験は、マネジメントの手法を身につけることにもつながってきますから、それをより発展させた施設の運営というマネジメントにも期待したいですね。

橋元 余談ですが、コメディカルで診療報酬などにかかわっているのはリハの専門職も多いですね。クリニックでPTが事務長をしていることもありますし、リハ専門職の業務としても、報酬単価の計算はルーティンに行っています。そういう意味でリハ専門職は経営のマネジメントに最も近いところにいるコメディカルということができるかもしれません。

浜村 維持期・慢性期のリハのマネジメント、チームで行う際のマネジメント。老健のリハ専門職はそれが仕事の大きな柱になる。そして、そういう経験を積んでいくことが、リハ専門職に施設運営という意味でのマネジメントの仕事を担うところまでの可能性をひらくということですね。

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*4:これまで介護保険では、リハサービスについて、その評価を主にリハ専門職の人数を基準に行ってきましたが、平成18年度の改定では、このような「体制」を評価するのではなく、リハサービスの「提供プロセス」を評価するようにシフトしました。リハビリテーション・マネジメント加算はリハの提供プロセスとともに、リハ専門職による1対1の対応も要件とされています。
*5:ケアマネジャーとは正式名称を「介護支援専門員」といい、介護保険のサービスの給付をマネジメントすることを主たる業務としています。働く場所は大きく2つあり、在宅サービスの利用窓口である「居宅介護支援事業所」と、老健などの施設です。また、ケアマネジャーの多くは、別に医療・介護などの専門職資格をもっており、リハ専門職のケアマネジャーも多く活躍しています。

老健は地域のリハ拠点

浜村 老健は、その理念と役割を昨年再整理しました。役割は大きく5つあり、最初に掲げた「包括的ケアサービス施設」の次に重要な位置づけとして「リハビリテーション施設」であることをうたっています。つまり、何度も繰り返しますが、老健はリハ施設なのです。このリハは維持期・ 慢性期のリハです。これまでは長期利用になる方も含めての「ケアのなかでのリハ」がメインでしたが、これからは短期間入所してリハを受け、また家に戻っていただくという、短期・集中的なリハをめざしていくこととしています。短期・集中的なリハとは、リハ専門職が利用者と1対1で行うことを基本にしたリハです。これまで病院でしか行われてこなかった形式のリハを老健でも行うようになるわけです。

老健は、単に高齢者を収容して長期にお世話をする場所なのではなく、地域、家庭で生活されている方が問題が発生した場合にちょっと通ってくる場所であり、逆に訪問リハを行う地域のリハ拠点です。それでうまくいかなければ入所していただき、元気になってまた住み慣れた家に帰っていただく。そういう在宅生活を支援する機能をもち、その目標に向かって多くの職種でチームとしてアプローチする。さらに強調したいのは、老健は点として存在しているのではないということです。地域のさまざまなリハ機関やケアサービス関係者と連携をとりながら、地域の人々と一緒になってネットワークを作り、高齢で障害のある方の生活を幅広く支援する施設なのです。

平井 冒頭に「老健は学べないというイメージがあった」という話がありました。たしかに以前はリハ専門職にとって「一人職場」となっていた老健も数多くありました。しかし、今は違います。老健は、リハ専門職の「一人時代」から「多数時代」へ変貌しました。何より、これまでに話に出た短期集中リハ、リハマネなどの新しい取り組みをするためには一人のリハ専門職ではできません。すでに老健の実態調査では、リハ専門職の人数は1施設あたり3人近くにまでなっています。ですから今は、かつての就職の際の不安材料であった「学べない」「指導者がいない」「仲間がいなくて寂しい」という老健は少ないはずです。

「いい老健」を見抜くポイントは

編集部 でも実際にいろいろな老健があります。
いいところもあれば、そうでもないところもあるでしょう。就職先として老健を考えたとき、学生さんはその老健のどこを見ればいいのでしょうか。

浜村 組織の質のバロメーターは一言でいえば 「職員の元気」に集約されてくるのだと思います。
実際に見学して、スタッフが元気かどうかを見る。そしてリハの実際を聞く。あと利用者への言葉がけや態度がどうかも重要ですね。これはどんな病気でも障害でもそうですが、大事に扱われないと、人は元気にはなれません。ですから、大事にしながら元気になっていただくんだ、という気持ちがあるスタッフのいる老健はいい施設といえるでしょうね。もう一つは、地域とどれだけ接触があるか。いかに地域で認知されていて、地域とのネットワークがあるかも重要です。

橋元 ただ、地域活動というのはなかなか見えにくいので、外からそれを見極めるのは難しいという面があります。私は、老健でも病院でも、その組織の質は、そこで働いているPT・OTたちがどれぐらいフットワークよく動いているかに尽きると思います。そして、働いている先輩がどういうポリシーをもってやっているか。先ほど話に出た「短期・集中的なリハ」は、そのポリシーやスタッフの動きが目に見えやすいものであると思いますから、それも指標になるかもしれませんね。

治療と同様の変化をもたらす老健リハ

浜村 急性期のリハは「治癒」という、よい方向に変わっていく楽しさがあります。一方、老健のリハを利用される高齢者では、身体機能そのもの、精神機能そのものが、とみに改善していくということはきわめて少ない。しかし、人間というのは、身体機能が改善するから元気になるとは必ずしもいえません。逆に、いくら機能が改善しても、気持ちのが前向きになれなかったり、周囲との人間関係がうまくいかないと元気にはなれないものです。障害を持って生きるということはたいへんなことです。そして慢性期の障害がなくなるということは少ないという現実があります。それでも老健のリハによって、障害のある高齢者が元気になったり、生活全体を活気づけることができる。治らない障害をかかえた高齢者にとってこの変化は「病気の治癒」という概念に極めて近いものです。それが老健のリハによって起こるのです。  

老健では、その変化をめざして、PT・OTたちがチームリーダーとなって、看護・介護の職種とともに援助していきます。障害があっても元気に生きていけるようにすることができるのは僕たち医療・介護にかかわる専門職にとって大きな喜びといえるでしょう。それができることが、老健リハの最大の特徴なのだと思います。このことを地域のなかで、地域の人たちと一緒に支えていく。それが老健です。高齢者を元気にしたい、みんなと一緒に仕事をしたいという人は、ぜひ老健のリハの実践に参加してほしいと思います。

(役職等は2006年8月31日公開時点のものです)